2018.05.21
加熱処理を必要とせずにIGZO-TFTの閾値電圧を制御 ~ICPスパッタ装置を用いた成膜プロセスを開発~

日新電機株式会社(本社:京都市右京区、社長:齋藤成雄)と奈良先端科学技術大学院大学との共同研究グループは、当社で開発したICP(誘導結合プラズマ)スパッタ装置を用いて成膜したIGZO膜への加熱処理を必要とせずに、薄膜トランジスタ(TFT)の閾値しきいち電圧を制御する技術を開発しました。これにより耐熱温度の低い樹脂フィルム上にディスプレイを作ることが可能となり、今後、折りたたみができるフォルダブルスマートフォンや、薄くて軽く、丸めることができるシート状の大画面有機ELテレビなどのフレキシブルディスプレイの量産拡大が期待できます。

 

TFTにおいて一般的には、閾値電圧を0V付近から正にした状態が望まれていますが、IGZO-TFTの閾値電圧を正にするためには、従来、TFT作製プロセス時に300℃以上の加熱処理プロセスが必要でした。しかし、当社ICPスパッタ装置を用いることで、150℃と低い加熱温度でも閾値電圧が正となることを確認しておりました。

 

これまで当社は、ICPスパッタ装置で成膜したIGZO-TFTの研究成果を発表しており、高信頼性に関して2017年7月に京都市で開催された一般社団法人 機能性薄膜材料デバイス国際会議主催の「AM-FPD’17」で、「AM-FPD ’17-ECS Japan Section Young Researcher Award」を受賞し、さらに、低い加熱温度での閾値電圧制御に関して、2017 年12月に仙台市で開催された一般社団法人ディスプレイ国際ワークショップ(IDW)主催の「第24回ディスプレイ国際ワークショップ(IDW’17)」で、「Outstanding Poster Paper Award」を受賞しています。このようにICPスパッタ装置を用いて作製したIGZO-TFTの有用性が評価されております。

 

今回、ICPスパッタ装置で作製するTFT構造と成膜時のプロセス条件を工夫することで、加熱処理プロセスを必要とせず、室温作製でIGZO-TFTが動作し、かつ閾値電圧を正に制御することに成功しました。

今回開発した成果については、7月3日より京都市で開催される「AM-FPD’18」での発表を予定しております。

 

【ご参考】

■用語解説

・ICPスパッタ装置

高周波で形成される磁界の変化によって発生する電界を利用して高密度プラズマをつくり、原料の板材にプラズマ中のイオンを衝突させることで材料を弾き飛ばして、対向する基材上にターゲット材料の薄膜を形成する装置

・薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)

半導体薄膜を使って作製したトランジスタで、ガラスやフィルムなどの絶縁基板上に製作し、液晶や有機ELの表示に使用される

・閾値電圧

トランジスタのスイッチングがオン状態になる電圧。TFTはゲートに大きな負電圧をかけるとスイッチがオフとなり、ゲート電圧を高くしていくと閾値電圧がオンの状態になる

・フレキシブルディスプレイ

丸めたり、折り曲げたりできる柔軟性を備えたディスプレイ

・IGZO(イグゾー)

インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)から構成される酸化物半導体の略称

・フォルダブルスマートフォン

折りたたみができるスマートフォン

 

■参考資料

・奈良先端科学技術大学院大学

奈良県生駒市にある大学院だけの国立大学で、関西文化学研都市の中核的な機関として、情報科学・バイオサイエンス・物質科学の各先端科学技術分野について、研究・教育を行っている。

・AM-FPD

薄膜及び材料関連学術分野の研究の促進、並びに成果の普及と、以て社会の発展に寄与することを目的とした国際会議。この会議では、IT技術や持続可能な社会を実現するためのFPD(フラットパネルディスプレイ)、薄膜デバイス、太陽電に於けるシステム、デバイスとプロセス、材料の研究や開発に携わっている人々に発表の機会を設けている。

・一般社団法人ディスプレイ国際ワークショップ(IDW)

ディスプレイ技術とその関連学術分野の研究の促進や成果の普及に関する事業を行う国際学会。このワークショップは、最新のディスプレイ技術が集まる国際会議であり、次世代のディスプレイ技術を育て、これに従事する研究者・技術者を育成することを目的としている。

 

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