書斎に掲げられた『潺湲亭』の扁額

石村亭は商家の隠居所として1911年(明治44年)頃に建てられたもので、母屋は木造瓦葺の平屋建てで書院造りの主室、数寄屋造りの控えの間など10部屋に、離れ(書斎)と茶室、洋館が付属し、回遊式の日本庭園には細長い池があり、滝が流れています。敷地面積は約1,950m2です。

主室は庭に面して廻り廊下、欄干があり、外にガラス戸が入っています。南側はわざと日の光を避け、棚を池の方にさしかけてあって、谷崎自慢の野木瓜(むべ)の葉が茂っています。この母屋を庭のほうから眺めるといかにも御殿風で、平安朝好みの谷崎のお気に入りでした。

庭から見た御殿風の母屋

庭から見た御殿風の母屋

谷崎は1949年(昭和24年)4月からおよそ7年間、この地を本拠にして「潤一郎新訳源氏物語」を完成させ、ほかにも「少将滋幹(しげもと)の母」「鍵」などの名作を残しました。小説「夢の浮橋」では、この石村亭が「五位庵」として登場しています。「欄にもたれて眺めると、池の向うの木深いところから瀧が落ち、春は八重山吹。秋は秋海棠の下を通つて、暫くの間せゝらぎとなつて池に落ちる」と、母屋縁側からの風景が描写されています。

母屋縁側

母屋縁側