ニュースリリース
リチウムイオン電池の劣化診断技術を開発 ~オンサイト・リアルタイムで高精度な解析を実現~
日新電機株式会社(本社:京都市右京区、社長:松下芳弘)は、分散型エネルギーの拡大に際して、定置用蓄電池システム(以下 BESS)に適用されるリチウムイオン電池の健全性を判定する電池劣化診断技術を開発しました。オンサイト・リアルタイムで高精度な劣化診断技術を実現し、日新アカデミー研修センター(本社東隣)での実証試験も良好です。本技術の活用により蓄電池を運用するお客様の課題を解決し、安全・安心の提供を目指します。
当社グループは中長期計画「VISION2025」において、6つの成長戦略に取り組んでいます。本件は「再生可能エネルギー対応」「分散型エネルギー対応」に寄与する事業活動の一つです。
再生可能エネルギーや分散型エネルギーの拡大で、災害時の電力供給や電力を有効活用するために蓄電池の充放電による調整が必要であり、サイクル特性や自己放電特性、入出力特性などに優れるリチウムイオン電池のBESSへの適用が拡大しています。一方、充放電の繰り返しや設置してからの経年で劣化していくため、危険物である有機電解液を含有するリチウムイオン電池の健全性や劣化した特性を把握することが重要となります。これまで蓄電池の劣化診断には、運転を停止して残容量を確認する容量確認試験や、電池を取り外して精密診断する交流インピーダンス法が知られていましたが、いずれも長期間のBESS運用停止や、それに伴うコスト負担などの課題により、頻繁に実施することは困難でした。
そこで、当社でのBESS関連事業の経験と、同志社大学理工学部 長岡直人教授との共同研究である「過渡現象を利用するリチウムイオン電池の劣化診断技術」の成果を活用し、新たに電池劣化診断技術を確立しました。
【電池劣化診断技術の特長】
- オンサイト・リアルタイム診断
内部の電池の取り外しは不要で(オンサイト)、運用中のBESSの電池劣化診断ができます(リアルタイム)。 - 蓄積された計測データを活用した診断
蓄電池に取り付けた計測センサで充放電データを取得し、蓄積された高精度な計測データを活用し劣化診断ができます。 - 各種デバイスと通信可能
蓄電池の劣化状態の診断は自動で行われ、診断結果(劣化判定結果、計測値の異常の有無)は「インターフェース基板」または「メンテナンスソフトウェア」で確認できます。さらに、「蓄電池の制御装置(パワーコンディショナやエネルギーマネジメントシステム)」とも連携可能です。 - 蓄電池盤内に設置可能
メイン基板のサイズはA5用紙程度であり、蓄電池盤内に設置できます。既存の蓄電池盤にも後付が可能です(後付には制約条件があります)。
開発した電池劣化診断技術を搭載した回路基板は、当社研修施設「日新アカデミー研修センター」(本社東隣地)に設置の蓄電池設備で実証試験を実施中で、安定した内部抵抗値を算出可能であることを確認しています。
電池劣化診断技術は、電池の劣化状態を診断するだけでなく、異常を検出する上でも有効であり、今後はBESSおよび蓄電池を活用するさまざまな用途への適用を目指していきます。また、当社蓄電池設備での蓄電池の劣化に伴う内部抵抗値の変化を観察するとともに、実用化に向け関心を持つ外部メーカーまたは蓄電池ユーザーと連携した実証検証を検討していきます。
なお、今回の成果は、関連する学会でも発表を予定しています。
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<参考>
蓄電池固有の過渡応答特性を利用し、時定数に応じた内部抵抗を等価回路解析により回路定数として算出し、劣化に伴う内部抵抗の増加を観察することで、電池の劣化を診断します。
【用語解説】
・定置用蓄電池システム
再生可能エネルギーや電力系統から電力を充電し、必要時に放電することで、電力の有効利用や系統の安定化、電気代の削減や停電時の電力供給を目的とした蓄電池システムです。BESS (Battery Energy Storage System)と略称されます。
・6つの成長戦略
「環境配慮製品の拡大」「分散型エネルギー対応」「再生可能エネルギー対応」「DXの製品・事業への適用」「新興国環境対応需要の捕捉」「EV拡大に伴う事業拡大」
・サイクル特性
充電と放電を1サイクルとして、充放電サイクルを繰り返した時の電池特性の変化をサイクル特性と呼びます。サイクル経過に伴い、電池の容量や内部抵抗の変化が小さいほど、寿命が長い電池と言えます。
・自己放電特性
蓄えられていた電気の量が、電池が未使用時でも時間が経過すると共に少しずつ減少していく(放電していく)現象のことを自己(自然)放電と言います。リチウムイオン電池は自己放電が小さく、電力の有効利用に適しています。
・入出力特性
電池を大電流で充電(入力)、または放電(出力)した時の特性を指します。一般的に蓄電池は大電流で充放電すると上下限電圧に到達しやすくなり、使用できる容量が減少しますが、リチウムイオン電池は大電流での電圧変動が小さく電気容量を有効に利用でき、入出力特性に優れています。
・同志社大学 理工学部 長岡直人教授
電力工学を研究分野として、電力系統過渡現象数値シミュレーションについての研究に従事されています。蓄電池のインピーダンス周波数特性が劣化によって変化することが過渡応答に現れることを、リアルタイム劣化診断技術の研究に応用され、2017年から当社と共同研究を実施しています。
・SOH
State of Healthの略称。健全度(劣化状態)を表す指標であり、初期の放電容量(Ah)を100%とした際の劣化時の放電容量の割合で示されます。
・過渡応答特性
リチウムイオン電池を含め蓄電池には時定数などで表される固有のインピーダンス成分を有し、これに応じた過渡特性を持ちます。蓄電池を充放電した時、その蓄電池に固有の過渡応答特性に応じて電圧・電流が変化します。
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