「この佇まいを維持してほしい」

路地と中門

京都市北部を北から南へ流れる賀茂川と高野川。二つの川が合流するところに世界文化遺産に登録された賀茂御祖神社(下鴨神社)があります。当社の迎賓館「石村亭(せきそんてい)」はこの下鴨神社の境内・「糺(ただす)の森」に面し、かの文豪・谷崎潤一郎が「潺湲(せんかん)亭」と名付けてこよなく愛した邸です。

※潺湲:水の流れる様子、またはせせらぎの音を意味する。

生涯に40回以上も転居した谷崎ですが、潺湲亭は、62歳から70歳までの7年7カ月間という、谷崎の生涯で最も長い期間に居を構えた場所となりました。

中門から臨む糺の森

中門から臨む糺の森

1956年(昭和31年)12月、事情により心を残しながら邸を明け渡すことになったとき、谷崎夫人と縁のあった当社が譲り受けました。その際、「京都に来たときは見に行きたいので、できれば現状のまま使ってもらいたい」との要望が谷崎より出され、その趣や佇まいを変えずに持ち続けることを約束しました。その言葉通り、熱海に転居した後も谷崎は春秋には京都を訪れ、庭を眺めながら一時の憩いを楽しんでいました。

邸の名前は「会社の施設として『潺湲亭』では堅すぎる。庭に石が多いから『石村亭』がよかろう」と谷崎自ら名付けたのが由来です。当社は60年あまり、谷崎との約束を守り続けてきました。
2016年7月に日本文化研究の第一人者であり谷崎の友人でもある故ドナルド・キーン氏が訪問され、懐かしの場所として楽しまれ、その文化的価値を守り抜く当社の姿勢を高く評価していただきました。

石に囲まれた庭の池

変化に富んだ多くの庭石